001 スタイルを固定化すれば“楽”になるが、それはしない。

そのスピード感を肌で感じる

 遠鉄百貨店のオンライン動画制作に携わって3年ほどになる。流通の現場は、想像している以上に慌ただしくスピーディーに時間が流れていく。一見、売場は固定しているように見えるが、実は日々変化している。実際の変化の単位は「1週間ごと」であるが、曜日によってアプローチが異なるため、それは「日々」と言っても差し支えない。
 売場が常に一定の速度で変化しているのと同時に、当然セールスプロモーションも同様のスピードで動いていく。ただし、通常は売場よりも数週間早めになる。そのサイクルを365日絶え間なく繰り返していくのが流通・小売の現場である。
 そこに、同様のスピード感で動画を組み込むためには、どうしたら良いのか・・・。おそらく、まだどこの百貨店も経験したことがないようなアプローチを、3年前に遠鉄百貨店はトライしようとしていたのである。

フロー型の動画という考え方、あるいは「動くチラシ」

 従来、動画(昔風に言えば「ビデオ」になる)は、丁寧に作ってそれを大事に何年も活用することが基本だった。メディアは、VHSやDVDなどカタチあるモノに書き込まれ、そのブツを持って作品が出回っていた。
 しかし、時代は急速に変化し、インターネット空間に提供されることで、より速くより多くの人に観てもらえる環境が整った。そして、高価な機材がなくても効果的な動画を配信することも可能になった。
 これによって、コンテンツとしての動画が、より強く求められるようになった。中でも、遠鉄百貨店の考え方は強烈だった。それを[動くチラシ]として割り切るという新しい概念を教えてくれた。
 それは、チラシと同じ消費スピードで動画を連続的・継続的につくっていくこと。その時、動画に与えられた命は、わずか1週間・・・。これを惜しむことなくつくり続けていくという小売業ならではの感覚が、実はとても新鮮であった。大切にストックするのではなく、消費されるフロー型の動画制作は、刺激的でパワフルな業務。余分な作り込みはしない。前もって用意周到な準備もしない。その日その時、見たもの・感じたものを動画として記録していく。その刹那的なノリは、ライブ感に溢れエネルギッシュで躍動的であった。こうしてまたひとつ、新しい価値観と出会うことになったのである。

動画づくりに正解は存在しない

 中にはシナリオが必要な動画制作も、もちろんある。いくら[動くチラシ]とは言っても、すべてが行き当たりばったりでは、伝えたいことも伝わらない。それでも、スピード感を求められている時、細部は裁量に委ねられていることが望ましいと考えている。
 一昔前のビデオ制作では、シナリオ通りにつくっても完成目前で変更を余儀なくされるケースがあった。最終判断の段階でNOが出るケースである。会社のイメージを左右するほどのビデオなら尚更だ。しかし、今、それをやっていたら相変わらず一本50万円以上のビデオ製作費がかかってしまう。そして、誰にも(面白みをもって)観られない、つまり歓迎されない動画が出来上がってしまう。そうした苦い思いをしないためにも、コンテンツファーストの考え方で動画をつくることが大切である。
 たとえ予算5万円でも、インパクトをともなった動画をつくることは可能である。ただし、二人三脚で進む必要はある。つくるべきものを導き出すには企業側の力が必要である。「ビジョンをカタチにする」それが、こちら側の役割なのである。